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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2861号 判決

控訴人 田島栄治

被控訴人(亡鈴木忠蔵訴訟承継人) 鈴木喜代子 外三名

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は、被控訴人らに対し、別紙物件目録(二)記載の建物を収去して同目録(一)記載の土地の明渡をせよ。

被控訴人らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一・二審とも控訴人の負担とする。

事実

第一双方の求めた判決

控訴代理人は、本案前の抗弁として、「原判決を取り消す。被控訴人らの訴を却下する。訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、本案につき、「原判決を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

第二双方の主張

一、被控訴代理人主張の請求原因及び控訴代理人の主張に対する反論

(一)  別紙物件目録(一)記載の土地(以下、「本件土地」という。原判決の土地の所在の表示につき「字蛇袋」の記載がないが、遺脱と認める。)は、原審における原告鈴木忠蔵の所有であつたが、同人は昭和四九年一二月一八日死亡し、被控訴人らにおいて共同相続し、その所有権を取得した。控訴代理人は、鈴木忠蔵の本件土地所有権の取得を争うが、別件確定判決(甲第一号証の三・四・五)により明白な事実である。

(二)  控訴人は、昭和四八年一二月頃本件土地上に別紙物件目録(二)記載の建物(以下、「本件建物」という。)を建築所有し、本件土地所有権を侵害している。控訴代理人主張の如く、控訴人訴外株式会社横浜ペツトハウス(以下、「横浜ペツトハウス」という。)間に本件建物の売買がなされたとしても、右売買は通謀虚偽表示による無効の契約であり、控訴人が本件建物の所有者であることに変りはない。

(三)  よつて、控訴人に対し、本件建物を収去して本件土地の明渡を求めるとともに、昭和四九年一月一日から右明渡まで一ケ月九、九一〇円の割合による賃料相当額の損害金の支払を求める。

二、控訴代理人の主張

(一)  本件建物は、後記のように、以前は控訴人の所有であつたが、現在は横浜ペツトハウスの所有であるので、控訴人は被告適格を有しない。

(二)  鈴木忠蔵が本件土地の所有権を取得したことを否認する。鈴木忠蔵は、昭和三六年七月二九日本件土地(当時は農地)につきその所有者金子秀夫と売買の豫約をし、右豫約において、豫約完結権は農地転用についての知事の許可がなされた後に行使すること、右許可のないとき豫約は当然解除となることと定められたところ、昭和三七年五月二五日付及び昭和三八年五月三〇日付の二回にわたる転用許可申請はいずれも却下されたので、売買豫約は、当然に解除となつたものであり、しからずとするも、金子秀夫は、転用不許可の場合解除しうる特約に基づき、昭和四四年二月七日付及び同月一〇日付の書面により鈴木忠蔵に解除の意思表示をなし、右書面は、いずれも、その翌日同人に到達した。右のように、金子秀夫・鈴木忠蔵間の本件土地売買豫約は、転用不許可により当然解除となり、しからずとするも、金子秀夫の意思表示により解除されたので、その後の豫約完結権の行使により、鈴木忠蔵が本件土地の所有権を取得するいわれはない。

(三)  控訴人が本件土地上に本件建物を建築してこれを所有したことは認めるが(ただし、建築の時期は昭和四六年二月頃)、控訴人は、金子秀夫・鈴木忠蔵間の前記売買豫約が解除された後金子秀夫から本件土地を買い受け、昭和四四年二月一六日所有権移転登記を経由したので、控訴人の本件建物所有による本件土地の占有は適法というべく、控訴人は、昭和四七年四月二五日横浜ペツトハウスに本件土地及び未登記のままの本件建物を売り渡し、現在は本件土地を占有していない。控訴人、横浜ペツトハウス間の右売買が通謀虚偽表示であるとする被控訴代理人の主張を否認する。

(四)  鈴木忠蔵が被控訴代理人主張の日に死亡し、被控訴人らにおいて共同相続したことは認める。

(五)  本件土地の賃料相当額についての被控訴代理人の主張を争う。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一、本案前の抗弁について

被控訴代理人は、本件土地上にある本件建物の所有者が控訴人であると主張し、控訴人に対して本件土地の明渡を求めているのであるから、控訴人は、被控訴代理人の右主張によれば、被告適格を有するのであり、本件建物の所有者が、控訴代理人主張の如く、控訴人でなくして横浜ペットハウスであるとしても、それは請求の当否の問題であり、被告適格の問題ではないので、控訴代理人主張の本案前の抗弁は、理由がない。

二、成立に争いのない甲第一号証の三ないし五によると、鈴木忠蔵は、昭和三六年七月二九日本件土地につきその所有者金子秀夫と売買豫約をし、同年八月一一日所有権移転請求権の仮登記を経由し、豫約完結権を行使した上、金子秀夫に対し右仮登記に基づく本登記手続を求め、併せて、右仮登記後に所有権移転請求権の仮登記を経た上その本登記を了した控訴人に対し、金子秀夫に対する右本登記手続を承諾することを求める訴を提起し、右両名に対する勝訴判決が確定したことが認められる。控訴代理人が鈴木忠蔵の本件土地所有権取得を否認する理由として主張するところは、右確定判決の訴訟で主張した抗弁と全く同一である。鈴木忠蔵は、前訴で所有権の確認を求めなかつたので、所有権の存否につき既判力はなく、従つて、控訴人としては所有権の存否を争いうることになるが、前訴で所有権の確認を求めれば当然認容されるべき事案であつたので、このことを考慮するとき、別訴で主張しなかつた新たな事実を主張してこれを争うのならともかく、別訴と全く同じ主張で争う場合には、証拠により所有権の存否を判断することなく、所有権の帰属に関する別訴の判断をそのまま尊重するのを相当とする。前記確定判決では、本件土地の所有権が金子秀夫から鈴木忠蔵に移転したと認定しているのであるから、控訴人が新らしい事実を主張することなく鈴木忠蔵の本件土地所有権取得を否認するのは、理由のないことといわなければならない。

成立に争いのない甲第四号証、乙第四号証、当審証人氏家功の証言、同証言により成立を認めうる乙第七号証、当審における控訴人本人尋問の結果によると、控訴人は、金子秀夫から本件土地を買い受けて昭和四五年二月二六日所有権移転登記(控訴人の所有権取得は、前記確定判決のいうとおり鈴木忠蔵に対抗できない。)を経由し、その後同地上に本件建物を建築してこれを所有し、昭和四七年四月二五日本件土地と未登記のままの本件建物を横浜ペットハウスに売り渡す契約を締結したことが認められる。前出甲第一号証の三ないし五、当審証人氏家功の証言によれば、鈴木忠蔵は、前訴において、第一審・第二審及び上告審すべてにおいて勝訴し、第二審判決は昭和四六年一二月二〇日言い渡され、上告審判決は昭和四七年四月二八日言い渡され、横浜ペットハウスは、上告審判決の直前に第一・二審で敗訴した控訴人から敗訴の事実を知りながら本件土地建物を買い受ける契約をしたものであることが認められ、この事実に、当審証人藤田寛一郎の証言により認められる本件建物には電気・水道の設備がなく、人の居住した形跡が認められない事実及び控訴人の当審における本人尋問の結果により認められる横浜ペットハウスの代表取締役氏家功が以前控訴人経営の会社の従業員であつた事実並びに本件土地の面積は九九一・〇〇平方米であるのにかかわらずわずか一九・八〇平方米の本件建物を所有するに過ぎない不合理な使用方法につき、控訴代理人は、これを納得させるなんらの主張立証をしないことを併せ考えると、控訴人・横浜ペットハウス間の右売買は、鈴木忠蔵の本件土地所有権の行使を妨害する目的でなされた通謀虚偽であると認めるのを相当とし、本件建物は、被控訴代理人の主張するように控訴人の所有であり、横浜ペットハウスの所有であるとする控訴代理人の主張は失当である。

鈴木忠蔵が昭和四九年一二月一八日死亡し、被控訴人らにおいて共同相続したことは、当事者間に争いがないので、被控訴人らは、右相続により本件土地の所有権を取得したものというべく、控訴代理人は、控訴人の本件土地占有権原につき、本件土地所有権以外のものを主張せず、右主張は理由がないのであるから、控訴人は、被控訴人らに対し、本件建物を収去して本件土地を明け渡す義務がある。

本件土地の賃料相当額についての証拠は、当審証人藤田寛一郎の証言のみであるが、同証言のみにより賃料相当額を認定するのは相当でない。

三、以上認定の如く、被控訴人らの本訴請求は、本件建物を収去して本件土地の明渡を求める限度において正当として認容すべきであるが、賃料相当額の支払を求める部分は、賃料相当額を認める証拠がないので、これを棄却すべきである。よつて、被控訴人らの被訴訟承継人鈴木忠蔵の請求を全面的に認容した原判決を主文のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第九二条但し書を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤利夫 小山俊彦 山田二郎)

(別紙)物件目録

(一) 横浜市港北区篠原町字蛇袋三五二五番

雑種地 九九一・〇〇平方米

(二) 右土地上所在

木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建居宅

床面積 一九・八〇平方米

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